確率過程のレベル交差問題、初通過問題とは

 確率過程が時間の経過とともに、時間に対し一定値の直線(レベル)、あるいは時間の関数である
曲線と交差する様子を扱った問題をレベル交差問題、カーブ交差問題あるいは初通過問題という。

確率過程には定常(時間の推移に対してその統計的性質が変わらない)ものと非定常のものがあるが
定常確率過程のレベル交差問題、初通過問題については多くの研究があるので、ここではこれについ
て説明する。

 定常確率過程ξ(t) がある値のレベルI と交差した後、初めてバリアー曲線 C(t)を通過するまでの
時間について考える。 この種の問題を初通過問題と言うが、これらは通信工学あるいは物理学の基
礎的な問題として研究がなされてきた。

 レベル交差、ゼロ交差

 例えばバリアー曲線 C(t)が出発条件レベルの値と同じ一定値である場合これをレベル交差問題と言
い、またそのレベルの値が確率過程の平均値に等しい場合これをゼロ交差問題と言う。
ゼロ交差あるいはレベル交差問題の研究はS.O.Riceの仕事に負うところが多い。[1] 
当初は定常 Gauss過程についてその単位時間あたりのゼロ交差点の数や交差点間隔長の確率分布密度
が解析的に研究された。特に隣り合う交差点間の間隔長τの確率分布密度 P0(τ)を求める問題は難し
く現在までのところ解決をみていない。

 確率密度の近似

 RiceやLonguett-Higgins [2 ] はP0(τ)を多重積分を含む項による無限級数として表現したが、
これは実際には計算することが難しく、その後の研究ではその初項( Rice 関数と呼ばれる)を用いた
近似についての仕事が多くなされてきた。
 McFadden [3]は相続くゼロ交差点間隔相互間に統計的独立あるいはQuasi-Independentの仮定を
導入し、 P0(τ)をRice関数を含む積分方程式の解として導いた。
 しかしながらその後の実験による研究結果は、この解が必ずしも P0(τ)の良い近似になっていない
ことを示した。
 P0(τ)の良い近似法の研究はこの分野での中心的テーマの一つであり、その後 Wolf,Brehm[8]に
よるGeschwaechert (弱められた) Quasi-Independent 仮定に基づく近似、Munakata, Wolf [ ]
のMulti-State Modelによる近似等が提案されている。

 非Gauss過程のレベル交差

 Gauss過程以外の確率過程についてもこれらの研究は進められている。
Rice,Rainal [4-6] は当初からFadingに関連してGauss過程+ Sinewave,狭帯域Gauss過程のエン
ベロープ、 Rayleigh過程, Rice過程, 位相過程等について多くの研究を行なっている。 
 また、Wolf,Brehmは音声に関連してK0,Laplace 過程や Fadingに関連してLognormal,
Suzuki過程等についても研究を行なっている。

 初通過問題、カーブ交差問題

 一方で、確率過程が交差するレベルあるいはバリアーのタイプもより一般的なものに拡張されてき
た。近年は二レベルでの初通過問題や時間とともに変化する曲線バリアーの場合などが研究されてい
る。[ ]

 実験によるアプローチ

 このような理論的研究がある一方で、実験による研究の果たしてきた役割も見逃せない。
確率過程のレベル交差間隔は実験により直接測定できるので、理論的には求めることが難しいもので
あっても実験からそれを知ることができる。また、解析的に求められた近似解の検証は実験結果と比
較することにより行なわれてきた。
 このように実験的アプローチには理論ではとても難しくて解析に及ばないような現象や性質の解明
や新しい事実の発見、現象の一般的傾向の把握などをおこなううえで多くの利点がある。
Mimaki et al.は実験的アプローチにより確率過程のさまざまな性質を明らかにし、理論的研究を刺
激し、またサポートした。

 交差間隔の分散、相関

 交差点間隔長の分散や相関の問題は解析的にはほとんど手が付けられていないが、すでに多くの実
験結果の蓄積があり、いくつかの興味深い性質なども明らかになっている。


まとめ

 確率過程のレベル交差および初通過問題は永く研究されているにもかかわらず、いまだに解決をみ
ていない問題である。 特に交差間隔の確率分布密度はその中心的問題である。さまざまな研究、実
験が行なわれ、その性質や傾向についての知識は増しているのだが根本的問題の解決には至っていな
い。多くの人に問題を知っていただき、問題の解決につながる糸口あるいは応用のアイデアなど見い
だしていただきたい。



Index